フランス父親事情
6月17日は父の日!という事で、この本をご紹介。
出生率2.0を誇るフランスでは、母子手帳だけでなく「父親手帳」が交付される。
開くと次のような「父親宣言」がなされているのだそうだ。
『この手帳は、父親であるあなたのためのものです。
妻ないし伴侶とともに、あなたは子供の誕生を待っています。あなたもあなたなりに子どもをこの世に送り出すわけです。あなたも、その子が成人するまで育てることを誓うわけです。母親にとってと同じくらい、父親にとっても子供の誕生を待ち出産を経験することは、自身に大きな変化をもたらす出来事であると、あなたは感じているはずです。
この父親手帳は、あなたの立場と役割を明確にするためのものです』
日本では女性は母子手帳を交付された時点で社会的にもれっきとした「母親」になるが、男性は子供が実際産まれて来るまで社会的にも「父親」とは認められないし、当然自覚もしにくいと思う。
今、私の手元にある某出産・育児ムックのサブタイトルだって、「生まれたて赤ちゃんとママのための本」とか書いてあるし父親など全く存在しないかのような扱いである(夫もこれには「なんでパパはないの」と突っ込みを入れていた)。
2002年から交付されたというフランスの「父親手帳」は、父親の権利回復の象徴のような意味があるのだとか。
父親が子供の世話をしないとか家庭に無関心だとかいうのは、もちろん社会の配慮の足りなさなども多いに関係あるだろうけど、妊娠中の自分の身体の変化に必死で「男にこの辛さが判るか!」等といい、妻が夫を家庭の中から疎外してきたことにも問題があるんじゃないかと、父親手帳が送られて来た時に思ったという妊婦の話が印象的。それからというもの出産というのは夫婦の共同事業だという認識が強まり、甘えるところは甘え、出来るだけ分かち合っていこうと思ったのだという。こういうのを聞くと「父親手帳なんて気休めだ」とも言えないもんだなと思う。
この本によれば、30年前と比べて母親の意識というのは特別変わっていないけど、父親の意識は相当に高くなったらしい。ちゃんとしっかり父親にならなくちゃ!という人がかなり増えたという。日本でも、検診に行くと夫婦揃ってエコーを見に来ている人たちが結構多い(うちもそうだ)。妻が妊娠してから毎月「たまごクラブ」を買って読むという男性も少なくないそうだし、男性の「父親としての意識」というのは日本でも高まっていると思う。昔なら家の中の事は妻にまかせっきり、帰ったら帰ったでふんぞりかえって新聞読んでるだけで良かった父親だけど、これだけ女性が外に出るようになり強くなってしまった現代、そんな父親像は時代遅れ甚だしい。現代には現代にマッチした理想の父親像というものが必要だ。だけどその理想の父親像というのはまだ「こうあるべき」という例がない分、現代の父親は様々な葛藤に悩まされるのかもしれない。
ただ意識が強過ぎてやりすぎるあまり、母親の立場まで侵害してしまうような勢いの父親もいるらしい。母親でも「しっかりやらなきゃ!」とがんばりすぎる人ほどノイローゼになりやすいというし、父親も同じだと思う。何事も過ぎたるは及ばざるがごとしだ。
最初から父親である人なんていませんよ。誰もが父親に「なる」んです。自分の心と身体で感じたことに耳を澄まし、受け止め、感じた事に素直に行動すればいい
この本に引用されているジェラール・ストルック医師(著書:Je vais être papa)の言葉だけど、これから父親になる人はなかなかこういうアドバイスを受ける機会が少ない(母親には母親教室やなんかでこういう事はよく言われるのに)と思うので、ぜひこういった本を参考にして戴きたいと思う。他にも中世から現代に至るまでの様々な父親事情が書かれてあって興味深いし、女性にも身につまされることが多いので面白く読めた。